アパレル・ファッション業界に正社員化の波。なぜ?どうなる?

アパレル業界に正社員化の波

アパレル業界に正社員化の波が押し寄せています。
今春にはファーストリテイリングが16000人を正社員化すると発表したのに続き、ディーゼルジャパンも契約社員の販売員を全て正社員化すると発表しました。

パイオニアは全員正社員のクロスカンパニー

この流れの口火を切ったのは「フェアファッション」を掲げるクロスカンパニーではないでしょうか。

元々、全員正社員を掲げ、社員9割が女性という同社らしく、「4時間社員」や「6時間社員」「産休制度」など女性に働きやすい環境を構築してきました。
ただ、クロスカンパニーは2009年に同社の1年目の女性正社員が過労死する事案が有り、2011年に労災認定された事で、「ブラック企業大賞2013」にはワタミ、ベネッセ、王将フードサービスなどと共にノミネートされてしまった過去があります。

人気女優の宮崎あおいをCM起用したメインブランド “Earth Music&Ecology”で若い女性に人気の企業であり、また、店舗従業員も含めて、全員が正社員として雇用されているとして一部で「女性社員の働きやすい企業」として宣伝されている企業だが、その労務管理には、大きな問題があった。 2011年2月9日、立川労働基準監督署は、入社1年目の女性正社員(2009年10月死亡)が極度の過労・ストレスにより死亡したとして労働災害として認定している。この女性社員は、大学を卒業した年である2009年4月にクロスカンパニーに入社。同年9月に都内の店舗の店舗責任者(店長)に任命された。店長就任以来、日々の販売の他に、シフト・販売促進プランの入力、レイアウト変更、メールによる売り上げ日報・報告書の作成、本社のある岡山での会議出席などに追われた。スタッフが欠勤連絡のために、深夜0時や早朝5時に携帯電話に送ってくるメールにも自宅で対応しなければならなかった。勤務シフトは通常3~5人で組まれていたが、相次いで3人退職した後も会社は人員を補充しなかった。売り上げ目標達成に対する上司からの追及は厳しく、マネージャーから店長に「売上げ未達成なのによく帰れるわねぇ」という内容のメールが送られてきた。亡くなった女性のノートには、本社のある岡山での会議で「売り上げがとれなければ給料も休みも与えない」旨の指示があったことが記されている。この女性は、働いても働いても売り上げ目標が達成できないので、2009年9月には、売上額を上げるために自分で計5万円以上も自社商品を購入していた。彼女の2009年9月の時間外労働は、労働基準監督署の認定した時間だけでも少 なくとも111時間以上だった。そして、極度の疲労・ストレスの中、2009年10月に亡くなった。
ブラック企業大賞参照(http://blackcorpaward.blogspot.jp/p/blog-page_12.html

この時、クロスカンパニーは、「弊社として、ご指摘のありました2009年の事案を真摯(しんし)に受け止め、労働環境の改善に取り組んで参りましたことをご理解いただければ幸いに存じます」(広報)と声明を出し、これ以降、同社は「フェアな生産するブランドこそが世界プレーヤー標準となる」の理念の元、2011年2月の労災認定の後、2011年8月には4時間社員・6時間社員制度を設け、女性がより働きやすい環境を整え、1000億円企業へと成長を遂げました。

先月、クロスカンパニーの上場準備の報道が出た事もあり、こういった社員を大切にする事や、生産過程での労働者の酷使をなくす「フェアファッション」の取り組みが大きく報道され、後に紹介するユニクロの16000人正社員などの火付け役となったのではないかと思います。

ユニクロは約半数の16000人を正社員に。

ファーストリテ、ユニクロのアルバイトなど1万6000人を正社員へ|ロイターワールドニュース
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYEA2I08320140319

ユニクロの正社員化の理由は「人手不足から人材の確保が企業の課題となっており、安定して働く環境を提供することで、優秀な人材の確保につなげる」としています。

ユニクロは過去に2007年にも「5000人正社員化」を掲げましたが、この時は、「正社員と同じく、繁忙期である土日の勤務や週40時間のフルタイム労働を求めた点に無理があった」と、労働条件を厳しくした事が原因となり、正社員が思ったように増えず頓挫。
今回は二度目の挑戦となります。

今回はその反省を生かし、時短勤務や平日のみ勤務という制度設計も検討しており、また海外転勤が正社員化へのネックになることもあり、社員を「R社員(リージョナル社員)、N社員(ナショナル社員)、G社員(グローバル社員)」と分類し、地域限定、国内転勤あり、海外転勤あり、など各自が選択出来るようにする事で対応するようです。

ただ、ファーストリテイリングにもブラック企業批判が相次いでおり、特に店長になると残業代なし、月に330時間以上の過剰労働、といった報道がされています。

それにより、正社員化する事でより過剰労働を強いるのが狙いなのではないか、といった疑念の声もあるようですが、ブラック企業批判に対して、柳井会長は「巷で批判されている内容に反論したいとも思っています。」とかなり拒否反応を示しており、そういった指摘や批判に対して、今回の16000人正社員化で労働者を尊重していく姿勢を明確に示すのが狙いなのではないかと思います。
ブラック企業批判については「我々が安く人をこき使って、サービス残業ばかりやらせているイメージがあるが、それは誤解だ」 「作業量は多いが、サービス残業をしないよう、労働時間を短くするように社員には言っている。ただ問題がなかったわけではなかった。グローバル化に急いで対応しようとして、要求水準が高くなったことは確か。店長を育てるにしても急ぎすぎた反省はある」と発言した。

上記発言もあり、過去の反省を生かした制度設計や運用が期待されます。

ディーゼルは販売員を正社員化。

ディーゼルジャパン、4月より販売員を正社員化。中途・新卒共に正社員採用|Fashion Headline
http://www.fashion-headline.com/article/2014/03/24/5623.html

ディーゼルジャパンも約300名の契約社員を正社員採用する事を打ち出しました。
こちらも人材不足の中で採用競争力を高める事を理由に掲げており、急成長を遂げる企業が続出し、グローバル化するアパレル業界で求められる即戦力の人材の不足が目立ってきています。
なお、正社員化するのは契約社員のみで、パートやアルバイトは現状のままパート・アルバイトで雇用継続するようです。

まとめ:今後、この流れは加速するのでは?

この正社員化による人材確保という流れはアパレル業界だけでなく、スターバックスも契約社員800人を正社員にすると発表しており、小売業・サービス業全体に波及しつつあります。

現在、アパレル業界では ユニクロやクロスカンパニーなど急成長する企業があり、またファッションの多様化で力のある人材の確保が難しくなってきているようで、労働者にとって魅力的な環境を整える事が企業が成長する重要な要素となる可能性は高いのではないでしょうか。

更に、ここ数年「ブラック企業」という言葉が生まれ、社員・従業員を酷使する企業には猛烈な批判が集まり、その中でも最もブラック企業批判が集中したワタミは66%減の大幅減益となるなど、これからは企業利益優先ではなく、より労働者を大切にする事も企業に求められるようになっていくと思われます。

京セラ創業者で名誉会長、JALを立て直したカリスマ経営者稲盛和夫氏が唱える「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること」という経営理念のような考えがアパレル業界にも必要になってくるのかもしれませんね。