ジーンズが売れない。
Levi'sはLVCを整理、EDWINは経営破綻、ジーンズメイトは大赤字、ライトオンは減収減益などなどジーンズ業界は稀に見る苦境に立たされている。
90年代に起こったヴィンテージジーンズブームに憧れ、レプリカジーンズブームで色落ちを競い合い、古着を愛する私としてはこの状況が非常に悲しい。
これまでも苦境ジーンズ業界についてはいろいろな考察をしてきたが、今後も勝手にジーンズ人気復権の鍵を探っていこうと思う。
復権の鍵、第一のキーワードは「楽しみを奪ってはいけない」である。
この言葉は、いつか見たテレビ番組でモビーダジャパンCEO孫 泰藏さんが「子供の写真をアップロードするとプロがそれを取捨選択し、製本(現像?)して届ける」というサービスをビジネスアイディアとして持ち込んだモビーダジャパンの受講生の方にコメントしておられた言葉だ。
「子供の写真を選ぶ楽しみをお母さんから奪っちゃいけない。」
私も二人の子供がいるが、写真を選ぶ行為は意外と大変である。
作業も大変だし、また親の目で見るとどれも可愛く思えてしまって、似たような写真でも取捨選択が出来ない。
この大変を「プロが代行」する事は、非常によく出来たビジネスの創造の仕方だと思う。
写真を選択して現像に出すという手間と時間を省略出来るし、しかも写真をプロの目で選んでくれる。
実に便利である。
でもその作業は大変ではあるが楽しい。
大変であるからなかなかやろうという気が起きなくて何百枚と貯め込んでしまうのだが、「もうやろう!」とやり始めると、夫婦でこの写真はどうだ、この表情はどうだ、と夢中になってやる。
きっとその作業を代行して「楽しみを奪ってしまう」事は便利にはなるが、同時に写真を撮るという楽しみすら奪ってしまう事になるのではないだろうか。
そうすると、写真というものの価値が下がり、写真に関する業界自体が縮小するのではないかと想像する。
翻ってジーンズ業界。
ヴィンテージジーンズブームが起こると各ジーンズメーカーはいかにヴィンテージジーンズに近い色落ちのするジーンズを作るかに躍起になった。
そしてレプリカジーンズブームで色落ちの良いジーンズにステータスが出てくると、今度はいかに色落ちの良いジーンズに近いジーンズを作るかに躍起になり、中古加工デニム、クラッシュ加工デニムを作る技術を競うように磨いた。
今では中古加工ジーンズを作っていないメーカーやブランドを探すほうが難しい。
アパレル関係のお店からジーンズショップにまでも「色落ちの良いジーンズに極めて近い色落ちしたように見えるジーンズ」が並び、最初から良い色落ちをしたジーンズを簡単に手に入れられるようになった。
もう毎日穿き込んだり、ジーパンを穿いたままお風呂に入ったり、ジーパンを穿いたまま寝たり、手を洗った後ジーパンの太ももの部分で拭いたり、「臭いから」と勝手に洗濯されてオカンにブチ切れたりしなくて良くなったのである。
実に便利である。
しかしその結果。
「ジーパンを育てる」という、ジーンズを穿く最高の楽しみを男子から奪ってしまった。
いかに便利になろうとも「楽しみを奪ってはいけない」のである。
中古加工ジーンズを作らないと売れないのも理解するし、一度出来てしまった流れをなくすことは簡単ではないと思うけれど、本気のジーンズメーカーには今後、中古加工ジーンズを徐々に減らす努力をしてもらいたいと思う次第である。